猫が毛を舐めて、一生懸命に毛づくろい(グルーミング)をしている姿を見かけたことがあるかと思います。猫にとって毛づくろいには、さまざまな意味があるのです。
また飼い主が注意しておかなければいけない点もあります。今回は、猫が毛づくろいする理由と注意点に関して紹介したいと思います。
猫はラバーブラシ状の舌でグルーミングをしている
グルーミングをするにあたって、猫の舌はとても重要な役割をしています。猫の舌には、小さな突起状のもの(糸状乳頭)がのどの奥まで生えていて、ラバーブラシのような形状になっています。
猫に舐められたことがある人はわかるかと思いますが、触られた感触はザラザラしています。このザラザラした部分で抜け毛やゴミなどを絡め取るのです。その上、唾液には殺菌成分が含まれています。だから、グルーミングをすることで体を清潔に保つことができるのです。
グルーミングで絡め取った抜け毛は、いったん飲み込んで毛玉として後から吐き出します。換毛期などで抜け毛があまりにも多い場合は、その場で出してしまうこともあります。
毛づくろいする理由
猫が起きている時間帯の多くを費やしているのが毛づくろいで、主に4つの理由があります。
参考:ねこちゃんホンポ
体をきれいにしている
猫は綺麗好きといわれます。上でも少し触れた通り、体を舐めることで毛についた汚れなどを落とし、抜け毛などを処理しています。汚れなどが毛にずっとつきっぱなしになっていると、皮膚に汚れが溜まることになりますので、それを防ぐためです。
汚れを放っておくと皮膚炎などの病気に発展することがありますので、大切な役割をしているんです。
毛づくろいには順番があることを知っていますか。観察をしてみてわかったのですが、次のような順番で舐めています。
- 顔を前足で拭く(前足を舐めてから行っています)
- 背中やお腹を舐めていく
- 後ろ足を上げてお尻周りを舐める
- 後ろ足を舐める
調べてみてわかったのですが、このような順番にして行うのは、体を清潔に保つためだということでした。汚れやすいお尻周りや後ろ足は最後にしているということがお分かりになると思います。
また、食後に舌で口のまわりや前足を舐めています。これも毛づくろい行動の1つで、汚れた部分をきれいにしています。
猫は狩りをしていた動物ですから、自分で獲物を捕って食べていたはずです。その際に口のまわりや前足に、食べた動物の血液や体液などが付くことがあったでしょう。ですから、食べた後にきれいにするのは当然のことなのです。
現在は、飼い主さんからフードをもらうことが当たり前になっています。しかし、口のまわりに食べかすが付いたり、エサ皿からこぼれ落ちたフードを前足で引き寄せたりしますので、「汚れる」という意味では昔も今も変わりません。
食べた後の舐める行為は、1番身近なグルーミングと思っていいでしょう。
体温調節
猫は人間とは違ってほとんどの部分が汗をかきません。正確には肉球などの一部だけに汗をかきます。だから、毛を舐めることで唾液の気化熱を利用して、体温を下げているのです。
寒い日は、保温するために毛づくろいをして、被毛の中に空気を取り込むようにします。こうすれば、体温を逃さないようにすることができます。
猫の舌の糸状乳頭は、ザラザラしていて抜け毛などを取るのに役立てています。しかし、それだけではなく、何度も何度も舐めてきれいにすることはマッサージ的な意味もあるようです。血行促進につながっているのかもしれませんね。
心を落ち着かせる
猫はポーカーフェイスが上手です。相手に不安な心を悟られないために、毛づくろいをすることがあります。緊張感や不安感などを紛らわせるんだとか。このことを「転位行動」と言います。
自分のテリトリー内に何かが入ってきて、不安な気持ちを抱えているときなど、さまざまなストレスを感じているときなど、猫は毛づくろいをして、自分の気持ちを落ち着かせます。いわばリラックス法といったところでしょうか。
次のようなタイミングで毛づくろいをするのを見たことがあるかと思います。
- フーッとかシャーとか声を上げてケンカをしていたのに、突然始める
- 高い所から落ちるなどして着地に失敗した後にする
- 飼い主に怒られた後などに一生懸命始める
- 他の猫の側を通った時に、意味もなく猫パンチをくらった後に別の場所でする
- 動物病院から帰ってきて、キャリーバッグから出してあげた後にする
などです。ご覧になってお分かりの通り、毛づくろい前の行動がストレスとなっている可能性が多いと考えられます。
上記の行動は、著者宅の猫達にみられるものです。ちなみに、実家の子(5歳・オス・MIX)は、著者が抱いて撫でた後(歩いているところを捕まえて)に、一生懸命に毛づくろいをしていました。慣れない人間に抱かれたことなどがストレスに感じたのでしょう。毛づくろいをし、心を落ち着かせていました。
ニオイを消す
猫は元々狩りをする習性があります。だから、ネズミや鳥のおもちゃを追いかけ回します。昔は、ネズミを捕まえるために、猫を飼っていた家があったくらいですから、野生の本能が根底にあるのでしょう。
自分のニオイで獲物に逃げられることがあるため、全身を毛づくろいしてニオイを消し、狩りに出る準備をしているということです。そんな狩猟をしていた頃の名残が習慣となっているのでしょう。それに毛づやも良くなりますので、とても良い習慣ですよね。
ビタミンDの摂取
猫は自らビタミンDを作り出すことができません。だから摂取することが必要です。しかし、飼い猫はキャットフードが主な食事となるため、外の猫のようにネズミなどの生肉を食べていません(生肉からさまざまなビタミンを摂取することができます)。
だから自分の毛から摂取するのです。猫は人間と同じように紫外線を浴びることでビタミンDを合成しています。毛を舐めてビタミンDを摂取するという、まるで自給自足のようなことをグルーミングでしているのです。
毛根部分にある皮脂腺から油分が分泌されているのですが、日光を浴びることでビタミンDが作られるのです。
コミュニケーションのため
毛づくろいは基本的に1匹で行います。多頭飼いをしている場合でも基本は変わりません。ただ、猫同士で舐め合うことがあります。一緒に住んでいるすべての猫に行うわけではなく、自分が仲間と認めた猫にしか行いません。どういう基準で選んでいるかはわかりませんが、相性が良いのか、相手が子猫だからなのか、個々によって理由があると思います。
実家の子は、先住猫がオスで新しく来た子たちがメスでした。先住猫は、茶トラの子猫には毛づくろいをしてあげていますが、もう1匹にはまったくしないようです。一方メス同士は仲が良く互いにグルーミングをし合っています。
このように、単体で行うグルーミングを『セルフグルーミング』、自分以外の猫に行うグルーミングは『アローグルーミング』といいます。
メスは母性が強く出るため、性別や年齢に関係なく仲間と認めた子にはグルーミングを行うようです。
しかし、オスはメスにしか行わないと言われています(テリトリー争いのこともあるようで、なれ合いは必要ないようです…)。
当時捨て猫だった子(推定年齢18歳)を飼っていました。黒猫で筋肉質、体の大きなオス猫です。捨てられてずいぶん経っていたようで、保護された後も家に来た当初も気性が荒い子でした。その子が、同時期にもらってきた他の家で産まれた猫(当時6ヶ月)トラ柄のメスをかわいがり、毛づくろいをしていたのです。
飼い主としては、「小さいから大丈夫かな?」と心配でした。でも、相性が良かったようです。ずっと一緒にいて、お互いを舐め合い毛づくろいし合っていました。それが非常にうれしく、年齢不詳でも子猫でも相性が良ければなれ合うのだなと勉強になった出来事でした。
猫の毛づくろいは、友好関係を示します。仲の悪いもの同士は絶対にしません。相性が良く、愛情を持って接していると判断していいでしょう。ただ、オス同士で毛を舐め合っている姿を見たことはありません。もしかしたら、オス同士ではやらないのかもしれないなと思っています。
飼い主と猫の愛情を深めるグルーミング方法
飼い猫が飼い主さんを慕って舐めてくることがあります。長年飼っていますので、グルーミングに近いようなことをされたことがあります。手に留まらず、おでこやら足やらを舐めてきます。猫にしたらグルーミングをしているつもりなのでしょう。
しかし、猫の舌はザラザラし過ぎていてかなり痛いです。でも、飼い猫が愛情を示してくれたときは、グルーミングを返してあげるようにしています。
やり方は、ラバーブラシを使って猫が自分ではするのが難しい箇所をやってあげるのです。首が回らずなかなか届かない頭や耳の付け根あたり、あごの下や首の後ろなどを中心にしてあげています。舐めるわけにはいきませんので、このように毛づくろいをしてあげると喜びます。
自分で舐めるのが難しい箇所は、普段のブラッシングで行ってあげてもいいかと思いますが、スリッカーブラシなどで行うと力加減が難しいので、ブラシを変えてやってあげることをおすすめします。
短毛種であれば、通常のブラッシングもラバーやシリコンブラシで行えますが、長毛種の場合はスリッカーブラシなどのピンがしっかりしているものでなければ行うのが難しいからです。
グルーミングのようなブラッシングならば、それほど毛が長くないでしょうから、ラバーやシリコンブラシでも行えると思います。飼い猫との愛情や信頼関係が強く・深くするためのものです。一度試してみて欲しいと思います。
毛づくろいの注意点
猫は多くの時間を費やして毛づくろいをしますが、飼い主が気をつけなければならない点もあります。それが「毛づくろいのし過ぎ」です。被毛がはげるようになるくらいまで行うようなら要注意!日々のストレスが蓄積し、精神的な危機を迎えているかもしれません。
毛を多く飲み込んでいる可能性がありますので、毛玉を吐き出すのも大変になります。特に長毛種の猫と、毛の生え換わり時期です。体内にあまりにもたくさんの毛が入ってしまうと、毛球症などになる可能性が高くなります。
そこまでいかない場合でも、毛を吐き出す回数が多くなることも十分に考えられます。愛猫に苦しい思いをさせてしまうことに変わりはありませんので、注意が必要です。
どうしても、毛づくろいばかりしているようなら、ブラッシングしてあげるのがおすすめです。余分な毛を取り除いてあげることができて、毛を飲み込む機会を減らします。それに飼い主が皮膚の異常などをいち早く見つけることにも繋がります。
長毛種や毛の生え換わり時期は、いつも以上にブラッシングをしてあげることが大切です。ブラシにはさまざまな種類があり、たとえば手袋状になっているグローブブラシや、バリカンのような形のファーミネーターなど、抜けた毛をしっかりキャッチして取り除くことができるものを使うようにしましょう。子猫の場合はシリコンブラシなどもおすすめです。
ちなみにこちらはベストセラーの猫用ブラシです。
ブラッシングの強さに注意
上でも触れましたが、ブラッシングは抜け毛を取り除くだけでなく、皮膚の異常を早期発見できる利点があります。
ただし、毛の長さに関係なく、力を入れ過ぎると皮膚を傷つけて痛い思いをさせることになります。特に長毛種の場合は、毛の量が多いために力が入ってしまいがちです。ブラシの力加減に注意しながら行いましょう。
痛い思いをすると噛まれてしまったり、ブラッシングを嫌がったりするようになります。ブラッシングする部分によってブラシやコームなどを使い分けてあげると痛い思いをさせることなくできますのでおすすめです。
体の異常がないかチェックを
毛を梳かすだけではなく、毛や皮膚の状態をチェックしましょう。私が発見したことのある異常例は以下のとおり。
- ノミなどの虫を発見
- 皮膚の異常な乾燥
- フケ
- 円形脱毛
- 皮膚の盛り上がり(良性のしこり)
- 切り傷(他の猫とケンカしたようです)
- 発疹
毛のパサつきなどは見たり触ったりすればわかりますが、それ以外の状態は毛を除けて皮膚を見ないとわからないことがたくさんあります。ブラッシングをしながらよく観察することが大切です。それが病気やケガの早期発見に繋がります。
同じ箇所ばかりを舐めている場合は注意!
毛づくろいをするのは、上記で紹介したさまざまな理由があるからです。しかし、同じ場所ばかり舐めている時は、そこに不具合を感じているからと思っていいでしょう。
皮膚病やケガをしているなどの体の異常だけでなく、何らかの原因でストレスが溜まっているときもあります。舐めている箇所をチェックしてみても何もない場合は、体内に原因がある可能性もあります。動物病院への受診や電話での相談などをしてみましょう。
性格的に神経質さがある子や、環境の変化があったような場合は、ストレスを抱えている可能性があります。イライラしたようにあちこちなめ回します。しかも体を触ろうとすると噛もうとしたり、嫌がって逃げたりすることがありますので、飼い主さんがケガをしないように注意してください。
引っ越しや猫が増えたなどで環境が変わった場合は、数日は見られる行為です。体をチェックして異常が見当たらないなら、1週間程度様子を見て治まるか様子を見てもいいでしょう。他の症状が出たり様子がおかしかったりなど気になる症状が出たらすぐに受診してください。
先日、実家の子のうち、1匹(3歳:オス:MIX)が、股の間ばかりを舐めているので変だなと思っていたようなんです。その次の日は大きな声で鳴くようになり、異常に気づいて動物病院へ。診断結果は、尿管結石でおしっこが出なくなって苦しんでいたということでした。
このように、同じ箇所を舐めている場合は、皮膚病や虫類だけでなく、他の病気でも気になるところを舐め続けるようです。普段から少しでも、毛づくろいのやり方を見ておくと、猫の異変に気がつくことができます。
毛づくろいをしない理由は老化なども考えられる
たいていの猫は、1日の多くの時間を使って毛づくろいをしています。シニア猫になってからもそれは続きますが、年齢が上がっていきますと頻度が減り、毛の状態が悪くなることがあります。そのような場合は、優しくブラッシングをすることも大切ですが、定期検診の時などに獣医さんに相談してみるのもいいでしょう。
毛づくろいをあまりしなくなった原因として、口内炎ができていることも原因となり得ます。ほとんどの猫が口の中をチェックするのを嫌がりますから、飼い主さんが確認するのは難しいかもしれません。エサをあまり食べなくなったなどの口に関係する症状があるかどうかを1つの目安にするのもいいでしょう。
当時飼っていたシニア猫(MIX・オス・当時18歳)があまり毛づくろいをしなくなった時は、体調が悪かったようです。動物病院に連れて行くまで、一緒に飼っていた子猫2匹が顔などを舐めてあげていました。毛づくろいをしなくなるということは、何らかの原因があると思って間違いないでしょう。
それ以外にも体調が悪いと回数が減ってきます。尿路結石を患った子も治るまで毛づくろいをしていなかったようで、毛がパサパサになっていました。
また、別の子はケガをしたためエリザベスカラーを付けていたこともありますが、毛がパサパサになっていました。病気が判明しているのであれば、「できないのだな」とわかりますが、急に毛がパサついたり、毛づくろいをしている姿を見なくなったりしたなどがあれば、他に症状がないかどうかもチェックして動物病院で診てもらいましょう。
まとめ
毎日やっている毛づくろいは、体をきれいにしたり温度調節だったり、はたまたビタミンDの摂取だったり精神的な安定を求めていたりと、1つの行動でさまざまな役割があってやっていることがわかったと思います。
それだけでなく、体の異変を教えることにも一役買っています。猫にとって、大切な毛づくろいですが、飼い主が普段から様子を見ておくことも必要です。異常に気づいてあげられるチャンスを大事にしてあげてください。
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